公開: 2024年4月5日
更新: 2024年9月3日
「いじめ問題」の研究者たちは、しばしば、日本社会の学校教育現場での「いじめの原因」に、子供たちが直面している心理的なストレスが影響していると、警告しています。それは、幼少期から、子供らしく、無邪気に遊ぶ時間的な余裕のなかった子供たちが、その欲求不満からストレスを溜め込み、それを吐き出せないまま成長し、学齢期になってその欲求不満を爆発させてしまうという現象です。さらに、勉強に追われて日々を過ごしてきた子供たちには、相手を思いやると言う心を、学ぶ余裕もないのです。
このようないくつかの原因が重なり合うと、ある日突然、そのはけ口が他の生徒への「いじめ」になって噴出すると言う現象に結びつく例があると、考えられています。このとき、その被害者に向けて発せられる言葉や、被害者に対して行われる行為には、相手が受け入れられる限度を超えたものになってしまう例があります。そのような、過度に攻撃的な態度が、「いじめ」行為となって、表出するのです。
そのような現象を「いじめ」として表出させないようにするためには、子供たちに、自分が被害者になった場合に感じる、心の「いたみ」について考えられるようにすることと、自分がストレスを持っていることを自覚し、それを爆発させないように、自分の心をコントロールするやり方を学ばせることです。昔のように余裕のあった時代には、子供たちは、そのことを遊びの中で、意識せずに学び、ごく自然に身に着けることができました。しかし、遊べない「今の子供たち」には、それを明確に教える必要があるのです。
国連は、日本社会における幼少期からの進学競争が、著しく日本人の子供たちの生育に悪影響を与えている可能性があるとして、「高等学校の入学試験を廃止するよう」にと勧告を続けています。高等学校への進学に試験を課しているのは、世界的にも稀で、このことが、子供たちの間に過度な競争心をを煽(あお)る結果となり、子供たちの成長に悪影響を与える可能性があるのではないかと懸念しているようです。
日本社会の教育制度で、高校入学試験を課すのは、明治時代の学制で、中学教育を義務教育ではなく、希望者に対する特別な教育としたため、入学選抜が必要だとされたためです。この慣習が、第2次世界大戦後の教育制度でも、旧制中学校を新制高校に機械的に変えたため、高校への入学に選抜試験が導入されることとなりました。ちなみに、日本社会では、中学校教育までが義務教育であり、高校教育からは義務ではなく、「任意」の教育制度されています。この陳腐化した教育制度がそのまま残されていることが、問題の根源のようです。
三津村正和、学校における「いじめ」問題の現状と課題創価大学教育学論集第67号(2016)